彼はとても静かに自分の車椅子を磨き、穏やかな口調で話してくれた。しかし、彼の目からは強い想い、断固たる決意が感じられた。
スピアー・ラバキ・ミリサ。グレーのシャツに青い腰巻で現れた彼は、とてもフレンドリーに握手をかわしてくれた。スピアーは絵描きである。しかし決して有名な絵描きではない。
1978年。不運にも遭遇した交通事故で彼は下半身不随になった。それ以来、車椅子での生活を余儀なくされている。あれから28年、車椅子はすでに体の一部と化した。
下半身と背中が思い通りに動かせないために、彼は長時間椅子に座ることができない。それでも、決められた時間内に作品を完成させることを彼は心がけている。ひたすら絵を描き続ける。「価値」とは何か。それを知りたいという一心で彼は描き続ける。そこには何の後悔もない、かわりに彼は楽しそうに笑う。「私の人生は、絵に描ける様な美しいものではない。でも私の絵は私自身をこの現実から解き放ち、とても心地よい気分にしてくれるのです。」
「私が絵という道を選びここまで絵描きを続けてこられたのは、2つのものが支えになっていたからです。ひとつは、神への信仰。もうひとつは家族です。私のまわりには、いつも素晴らしい人たちがいました。そして、とても深く落ち込み、暗く悩んでいるときは、神と向き合い、絵を描きつづけました。」
彼の作品のほとんどは、パプアニューギニアに伝わる民話をもとに描かれている。「私の絵を見て、パプアニューギニアの伝統の素晴らしさや私達の持っている感性を知ってもらいたいのです。そしてパプアニューギニアの人々にももっと自分達に誇りと自信を持って欲しいと願っています。」
(了)
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